LOGIN
「カハッ……絶体絶命ですわね。でもわたくしはまだ死ぬわけにはいけませんの!」
龍種は魔法の行使を妨害し無効化する効果のある鱗を持つ。故に龍種は魔術師や魔剣士などの職業対して絶対的な優位性を持つため、物理でのゴリ押し一択なのだ。私が勝てない相手を処理できる剣士は剣聖様くらいだろう。そして唯一可能性のある剣聖様は悪名高きベヒーモス討伐時に負った怪我の療養中で万全ではない。 「ここでわたくしがやられてはこの領、ひいてはこの国が終わる!(チクチクちょっかいを出してくる隣国のことなんてもう知りませんわ!)こうなったら相打ち覚悟でいくしかありませんわね。剣姫の称号を持つものとして!王国の剣たるルミナリア辺境伯家の長女として、ここで負けるわけにはいきませんもの!」 ◇◇ 鍛え抜かれた肉体も磨き続けた剣術も……全てが圧倒的な暴力の前には無力だった。すでに体内の魔力が一割を切っている。そんな状況では身体強化魔法を行使するための魔力もいつ尽きるかわからない。魔力が尽きてしまえばあとはこの龍に蹂躙されるのみ。 龍、それは神話の時代にも存在したこの世界最強の一角である。姿こそバラバラではあるものの共通するのは天を駆けること、何らかの属性のブレスを吐くこと。そして、強いこと。 同じ読みをする竜とは文字通り格が違うのである。画数の画と強さの格を掛けた訳では無いです、はい。 剣術の名家ルミナリア辺境伯家の長女、剣姫アビゲイル=ルミナリアといえど魔力が尽きればただの人間。戦闘力も近衛騎士団長クラスまで落ちてしまう。本物の怪物、まして連戦後ともなれば手に余るのだ。 「こんなことになるのならちゃんと好き嫌いせずに魔物を食べておけば良かったですわね……」 魔物食、それは一部の部族でのみ行われている肉体改造を目的とした特殊な鍛錬法である。この鍛錬法は魔力を持つ者を倒した際に行われる魔力吸収現象をより効率良く行えるとされており、倒した対象の魔力を余すことなく自らの力に出来る。その部族は少数ながらも圧倒的な武力を誇るという。 では何故そんな夢のような鍛錬法が普及しておらず一部地域でしか行われていないのか。それは単純に毒だからだ。魔物の纏う魔力は瘴気とも呼ばれ、多く浴びると一定時間身体の機能を阻害するのだ。食べて体内に取り込めばどうなるか言うまでもないだろう。そう、修練の効率が落ちるのだ。 普通に狩っていれば、身体に入ってくるのは有害な瘴気ではなく純粋な魔力のみを取り込める。汚染された魔力である瘴気すらもおのが力に変えようというのがこの魔物食である。 とある異界人は言った。「強くなるには魔物を狩るのが手っ取り早いってのにこんなデバフ食らってちゃ効率が悪ぃ」と。 あと普通に魔物が美味しくない。筋肉質で硬く生臭いお肉。討伐後すぐに血抜きをすれば多少マシになるとはいえ魔物の生息地においては難易度が高すぎる。 無論、この理由だけで普及しないわけではない。最大の理由は……宗教だ。 世界最大の宗教、レギウス聖教会。その教義には「魔物は全人類共通の敵であり、排除されるべき物である。また、魔物は不浄な生命であるため触れた場合は即刻教会にて浄化すべし。」とある。 国ですら無視できない程の信者数と影響力を持つレギウス聖教会が不浄な物であるとする魔物。それを食べる鍛錬法など普及するはずがない。 もっとも、彼女が魔物を食べなかったのは魔物が美味しくないからであって宗教云々は関係ないのだが。それに彼女に天賦の才があった。 学生時代は彼女より強い者もいたが、それでもたゆまぬ鍛錬の末に最終的には全て勝ち越してきた。だから彼女は魔物なんて美味しくないものを食べる必要などないと思っていた。 この日、命の危機に瀕するまでは…… 今まではその考えでも問題がなかった。格上と戦う時はいつも命の保証がされたもう1回がある戦い。魔物を相手にする時も深入りせず、常に安全マージンを大きく取っていた。 だが、どんなに気を付けていてもイレギュラーは起こりうるのである。 ルミナリア辺境伯領に接する森林は魔物の領域だ。その魔物の領域、通称魔窟に生息する魔物であれば何体いようともアビゲイルの敵ではない。 並の戦士では一体相手にフルパーティでやっとなのだが、そんなことアビゲイルには関係ない。剣姫の肩書きは伊達ではないのである。 「さすがに龍相手だとわたくしでも無理そうですわね。魔力不足で火力が足りないですし。とはいえわたくしがこの領の最高戦力。みすみすこの先に行かせる訳には行きませんわ。わたくしが止めれなければお父様やお兄様が相手をするしかないですけれど……あの二人では龍の相手が務まりませんわね。となるとわたくしが相打ち、もしくは撃退する必要がありますわね。はぁ、どうしてよりにもよって地龍が……。」 ◇◇ 唯一の地龍の討伐パーティの愚痴 「地龍の特徴は堅い、重い、遅い。堅いくせにバカスカ質量攻撃してきやがって……意味わかんねぇよ!ナーフしろナーフ!」 「クソ堅い敵を相手に弾幕ゲーしながらチマチマ攻撃して体力削り切れって?馬鹿じゃねぇの?難易度バグりすぎ!クソゲーかよ!」 「もうヤダ二度と戦わん。依頼料に釣られてこの仕事受けたけど、もうやらん二度とやらん。」 「もう私冒険者やめようかな……。」「お母様お母様!ペットを捕まえて来ました!名前は|栄養バー《リーゲル》です!」「まぁ、なんて愛らしい子なんでしょう。ところでアビーちゃん?」 何か変なものでも受信したのでしょうか。名前を聞いた瞬間顔色が変わりましたわね。まぁお母様はこういう方なので気にはしませんけれど。「はい、なんでしょう。」「その白い狐さんの名前のことで一つ聞きたいことがあるの。――何か変なニュアンスはなぁい?」 何か妙なことを突然言いますわねお母様。でもこれと言って心当たりはないんですわよね。「特に何もありませんわよ?しいて言えば遠い異国の言葉らしいんですけれど意味はよく分かりませんでしたの。でも語感が良かったので採用してみましたわ!この子に相応しい名前はリーゲルの他にないと断言できますわ!なんせわたくしが考えましたもの!」「そう、ならいいわ。ところでその子はうちで飼うのかしら?」「はい、そのつもりですわ!狩人は狩りをする時に飼い慣らした獣を使って獲物を誘導すると聞いたことがありますし、きっとリーゲルはわたくしの良きパートナーになってくれますわ!」「魔物といえど生き物は生き物、その生き物を飼うというのならそれなりの覚悟が必要よ。それは分かっているの?」 ふっふっふ……お母様はわたくしを誰だと思っているんですの?わたくしはモフモフマイスター(自称)ですのよ!それくらい承知の上ですわ!「もちろんですわ!全力で可愛がるつもりですもの!」
無事帰宅ですわ!まぁ日帰りで行ける範囲なんてたかが知れてますし無事もクソもねぇんですけどね。おっと、クソだなんてお下品な言葉を使ってしまいましたわ!こんな調子ではおばs……じゃなくてお年を召した方に怒られてしまいますわね。オホホホホホっ!「あ、そうそう!一応家族が増えるわけですしお父様……に言っても仕方ないですしお母様に報告しておきましょうか。こんなにもモフモフでプリティな狐さんですけれど一応分類上は魔物ですし"チェストォォォォォォォォォォ!!!"されない為にみんなへの紹介もしないとですわね。」 あらあら、可哀想な狐さん。こんなに震えちゃっていますわ。大丈夫ですので安心してください。わたくしがちゃーんとうっかり食べちゃわないように言い含めますわ。「あ、そうですわ!」 家族になるんですもの!名前を付けないとですわね。わたくしったらうっかりしてました。そうですわねぇ……リーゲルなんてどうでしょう!響きも悪くないですしね!たしか遠い異国の……なんてしたっけゲルマン?とかいうところの言葉らしいですけれど詳しくはよく分かりませんわ。 まぁそんなのはどうでもいいですわよね!こういうのは勢いとパッションと語感が命ですもの!我ながらネーミングセンスが冴え渡ってますわね!さすがわたくし!「おいでリーゲルちゃん!さぁ、行きますわよ!」※【独】Riegel(リーゲル):栄養バー
そいつは私に獲物を与えたきた。でも……魔物食べるの身体に悪いし、別にいらないんだよね私。あ、あのぉ……ほんと大丈夫なんで出来ればそのまま回れ右してお帰りいただけると幸いです。はい!「クゥーン……」 いや、でも今これを食べなきゃ殺られるかもしれないっていうのも考慮しなきゃだよね。いやでも、うーん……「クゥーン……」 いつこいつの堪忍袋の緒が切れて襲いかかってくるかも分からないしそろそろ覚悟決めなきゃだよね。いや、でもなぁ……「クゥーン……」「――"わたくしも困ってしまいますわね。"」「キュッ!?」 やばい!殺られる!た、食べます!食べますから!許してくださいご主人様!!「――――――"これ"も念の為試しておくべきですわね。はいどうぞですわ。」 おにい……ちゃん?「キャン!!キャン!!キャン!!」 え?なんで!お兄ちゃん!目を覚ましてよお兄ちゃん!ねぇってば!なんで目を覚ましてくれないの?ねぇ!ねぇ!そんな……いつものイタズラだよね?そうだよね?だってお兄ちゃんかくれんぼ上手だったじゃん!そりゃ正面から戦ったら私が勝つけどさ!『やっぱり強いな――は。お前自慢の妹だな。でもまだ俺も負けてやるわけにはいかないんだよね。だって俺は――のお兄ちゃんだからさ。』『いや〜ついに負けちゃったかぁ。強くなったな――。お前より弱い俺じゃ頼りないかもしれないけどさ、なにかあったらいつでもお兄ちゃんのことを頼ってくれよな。なにがあっても駆けつけてみせるから。』『お前なら一人でもやれるよ。母さんはああ言ってるけどさ、なんだかんだお前のことは認めてるから大丈夫。あとのことはお兄ちゃんに任せとけって!愛してるぞ、俺の自慢の妹。』 なにがあっても駆けつけてくれるって。いつでも頼れって。お兄ちゃんが死んじゃったら頼れないじゃんか……。「喜んでもらえてよかったですわ!どうぞ遠慮しないで食べてくださいまし!」 ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!
「あら?わたくしは何しにこの森に来たんでしたっけ。まぁ、何はともあれ狩りはそれなりにしましたしこの辺で一旦終わりにしましょう。お腹も空いできましたし親交を深めるためにも食事にしましょうか。東方の島国には"同じ釜の飯を食う"なんて言葉もあるらしいですしね。それはそうとこの狐さんは何が好みなんでしょう。これとかはどうですの?」 「クゥーン……」 豚さんはダメみたいですわね。 「じゃあ……これは?」 「クゥーン……」 トカゲさんもダメですか……。 「これなんかどうですの?」 「クゥーン……」 鳥もダメですのね。 「あなた、以外と食の好みがありますのね。わたくし、野生で生き延びるためにもっとなんでもがっつくのを勝手にイメージしてましたわ。うーん……ここまで全滅となるとさすがのわたくしも困ってしまいますわね。」 「キュッ!?」 「急にがっつき始めましたけれどどうしたんですの!?別に好き嫌いしたからって捨てたりはしないから安心して欲しいですわ!わたくし、アビゲイルを甘く見ないでくださる?そうは言ったものの手持ちにあるのはだいたいが同系統の上位種と下位種ですし……。となると最初に候補から外していた"これ"も念の為試しておくべきですわね。はいどうぞですわ。」 「キャン!!キャン!!キャン!!」 「喜んでもらえてよかったですわ!どうぞ遠慮しないで食べてくださいまし!」 まさか狐の魔物が当たりだなんて思いませんでしたわ。
※以下狐語訳です。 ふんふふんふふーん♪今日もいい天気だなぁ〜♪なんだか最近やけに駄竜が少ない気がするし最高だね!」 駄竜ってなんて言うかヤンキーみたいな感じでさ、いちいち難癖つけて攻撃してくるからクソウザイんだよね。ん?なんか……嫌な予感がする。具体的には昔イタズラがバレて母ちゃんをガチギレされた時くらいの嫌な予感が。 まさか……抜き打ちチェック?嫌でも前回うちに来て生活状況確認された時から2ヶ月しか経ってないのにそんなわけないか。じゃあなに?まさかの存在を脅かすほどの格を持つものがこの森に入ってきたってこと?いや、それこそありえない。ありえない……よね?◇◇ い、いやぁぁぁぁぁぁああ!!!ば、化け物ぉぉぉぉぉぉ!!!悪寒の正体はこれぇ!?ていうかえ?人型!?人型になれるってことは知能も高いってことでしょ?脳筋ならまだしも知能高いとか終わったわ。あぁ死んだ。もう死んだ。来世は長生きできるといいなぁ。「はうっ!あんなところに可愛らしいモフモフさんが!しかもそのモフモフが白銀の毛の狐さんとはわたくしスーパーウルトラグレートデリシャスワンダフルついてますわね!これで勝つるですわ!」 これは……一応人語みたいだけど何言ってるのか全然理解できないよぉ!怖いよぉ!単語はわかるのに文章が意味不明すぎるよぉ!なにこれ隠語? 「さぁ〜おいで〜怖くないですわよ〜?」 いや、怖いよ!怖いに決まってるよ!母ちゃん助けて!もうわがまま言わないからぁ!あぁもうヤダおうち帰るー!ママァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!
「モフモフ〜♪モフモフモッフモフ〜♪わたくし〜のあいぼ〜うはどっこにいる〜♪可愛い可愛いわたくし〜のモフモフさ〜ん♪わたくし〜はここよ〜出ておいで〜♪」【モッフモフ第6番『相棒』-第2楽章 作詞作曲 アビゲイル=ルミナリア 】より そんなこんなで森を散策すること二時間。一向に見つからないモフモフ。性懲りもなく突撃してくる|駄竜《バカ》共。なんなんこいつら!さっさとピーねよ!てかわたくしについてる血で同じバカ共の末路を理解できねぇのか?あぁん?おっと失礼致しました。つい美しくない言葉を使ってしまいましたけれど、普段はこんなんじゃありませわ!本当ですわよ!チッ……全部全部あの駄竜が悪いんですわ!モフモフA『何あの化け物!竜を何体仕留めればあそこまで濃い竜の匂いが付くのさ!逃げなきゃ殺られる!逃げなきゃ殺られる!』モフモフB『あ、やばい僕死んだ。お父さんお母さん、先立つ親不孝者な僕をお許しください。』モフモフC『……………………………………………………………………………………オジャマシマシタ。』 上位の魔物の血は魔物除けの結界に使うとも聞きますし、駄竜の血の影響でしょうか。やっぱりあのバカ共のせいでしたか。あとで根絶やしにしないとですわね。余計な予定を増やすだなんてあの駄竜共サイテーですわ! 「はうっ!あんなところに可愛らしいモフモフさんが!しかもそのモフモフが白銀の毛の狐さんとはわたくしスーパーウルトラグレートデリシャスワンダフルついてますわね!これで勝つるですわ!」"プルプルプルプルッ"「さぁ〜おいで〜怖くないですわよ〜?」"プルプルプルプルッ"『修羅が……修羅がいるよォ……私美味しくないからぁー!私食べても美味しくないから殺さないで〜!』「ほーらわたくし特製の干し肉ですわよ?食べたいでしょう?」"プルプルプルプルッ"『あ、私は今日死ぬんだ。あの方優しいな、今から殺す相手に慈悲として最後の晩餐を用意してくださるなんて……アハハハハハッ!』「ほーらおいでー!」 "プルプルプルプルッ"『イィィィィィィィィヤァァァァァァァァ!!!!』